2024年10月16日 17時00分
インタビュー
2024年10月16日 17時00分
インタビュー
舞台「そのいのち」で脚本・出演を兼任した佐藤二朗
温かく個性的な存在感で、ドラマや映画、バラエティなど幅広い分野で活躍中の佐藤二朗さん。俳優として活動しながら、1996年に立ち上げた演劇ユニット「ちからわざ」を主宰、全公演で作・出演を担当し、脚本家としても評価を得ています。そして、今回関西テレビの協力を得て、12年ぶりとなる新作戯曲「そのいのち」を書き下ろし、東京・兵庫・宮城で上演されることになりました。介護ヘルパーを主人公に、障害のある女性と年の離れた夫の3人を中心に描く物語。稽古を控えた佐藤さんに、作品への熱い思いと、さらに“推し活”について語ってもらいました。
――主人公の介護ヘルパー・山田里見役に宮沢りえさんをオファーされたのは?
りえちゃん主演の「紙の月」という映画を見て、なんて抑圧されるのが似合う女優さんだろうと思って。だけど、中にはすごく熱いものを持っている。この山田里見という役も、そういう感じのイメージだったので、「あぁ、りえちゃんがいいな」と思ったんですね。で、無理かもしれないけど……って、オファーしたら本を読んでOKしてくれて。
――今回、宮沢さんに期待することは?
一緒にやっていく、ということですね。もちろん全部期待しているし、信頼もしているし。ただ、作品は一緒に稽古場で作っていくもの。りえちゃんも相当な思いでやると思うので、僕も負けないように一緒にいいものをつくりたいなと。
――宮沢さんが台本を読んで、衝撃を受けたシーンや鳥肌が立ったシーンがあると、制作発表や番組で発言されていました。それはどんなシーンですか?
聞いていないんです、僕。りえちゃんも言わないし。あえて聞かないですね。でも、多分ここだろうなと想像したりはしていますけど。それが、芝居が終わって打ち上げのときに「あれ、どこだったの? あ、違ってた」でもいいし「あ、俺もう予想してた」でもいいし。
――すごく気になるんですけど!
じゃあ、見に来てください(笑)。
――介護ヘルパーの雇い主で、障害のある相馬花役には、実際にハンディキャップを持つ方を配役されています。そのきっかけと意図を教えてください。
若い脳性まひの女性・花の役を、最初は健常者の女優さんにやってもらおうと思っていたんです。でもあるとき、障害をなくす“バリアフリー”ではなく、障害を価値に変える“バリアバリュー”を掲げる会社の社長・垣内俊哉さんを知って「俺がやりたいこと、それだよ」と思って、ラジオ番組で対談をお願いして。実際に障害のある人にやってもらえないだろうかと思ったきっかけはそれかな。その一番大きな理由は作品のためですが、僕は「負を力に変えることが生きることだ」と信じているんです。僕自身が負を力に変えることができるかどうかわからないけど、できればそれをこの目で見たいと思ったので。
――上甲にかさんと佳山明さんのWキャストにした理由については?
僕がやっている番組「歴史探偵」のプロデューサーが「バリバラ」という番組もやっていて上甲さんを紹介してもらって、出演したドラマの映像を見て実際に会ったのが去年。でも、彼女は進行性の筋ジストロフィーで、公演は来年だからもう一人キャストが必要になって。それで「37セカンズ」という映画で主演を務めていた佳山さんを見て、「わ、ここにもいい俳優がいた!」と。それでWキャストにしました。
――チラシのストーリーには最後に「3人が選んだ衝撃の結末とは……」とあります。ハッピーエンドの大団円という物語ではなさそうですね。
主人公の前に立ちはだかる障壁が全部バアッとなくなって、すごくいいことになって、うわぁ~っとなるような物語じゃないですね。今まで僕が書いた「だんらん」というドラマも「はるヲうるひと」という作品もそうです。「そのいのち」はこれから見ていただくから、あまりネタバレはできないですけど、ムチャクチャいいことにはならないです。でも、ムチャクチャいいことになる人を見る感動より、ちょっとしたことで前を向こうとする人を見る感動のほうに僕は興味があって。障壁は相変わらず、今日も明日も昨日と同じようにあるけれど、「しょうがねぇから前向こうか」って思える話にグッとくるんですよ、僕はね。
――伝えたいテーマは、「負を力に変えて生きること」ですね?
みんな、何か絶対に負はあるじゃないですか。例えとしてはあまりよくないかもしれないけど……病気になって入院した、でもそのおかげでやめられなかったたばこがやめられた、とか。「ケガの功名」という言葉もあるけれど、とにかく一見悪いことだったりすることも生きる力に変えていくことの繰り返しが、すなわち生きるということだと。この年になって思うようになってきました。
――これから稽古、本番へ。今回一番大事にしようと思っていることはなんですか?
大変です、はっきり言って。もしかしたら舞台で誰もやっていないような試みかもしれない。言うまでもなくケアは絶対にしていきたいし、いろいろ大変なことがあるだろうし。けれど一番大事にしていることと言われたらやっぱり作品のために、ということです。キャストもスタッフも、全員が真に同じ方向に向かったらすごい公演になると思います。映画にみんなの思いが映るように、みんなの思いは舞台上に出ますからね。
――「推し楽」は推し活する人を応援するメディアなので、佐藤さんの今の“推し”を教えてください!
私は常に“晩酌推し”です。
――どんなものを飲まれて、そのときのお供には何を?
もう、いろいろです。夕方ぐらいから気になるわけ。今日はギョーザとビール、中華だったら紹興酒、洋風だったらワインにしようとか。今日は焼き鳥だから普通にホッピーとか、そういうことを考えるのが大好きです。で、プランを考える。先に風呂か、いや風呂は次の日にして、とか(笑)。だから僕は晩酌に首ったけですよ。そういう意味で僕の推しは晩酌です。
――ご自分でお料理して作られるんですか?
これがほんとに世の女性に怒られそうなんですけど、妻が作ってくれます。ほんとに妻に感謝です。ただ、砂肝の塩こしょうにんにく炒めだけは僕が作ります。なぜかそれだけは自分で作って自分で食べます(笑)。
――最後に、舞台を鑑賞いただく方たちへのメッセージをお願いします。
これはこういうもんだ、とか、あれはああいうもんだ、というのをなるべく崩したいと。それは書くときも役者として演じているときもそう思っているので、そういう感じで見に来てもらえたら。
取材・文:高橋晴代
撮影:西木義和
2024年11月9日(土)~11日17日(日)
会場 東京都 世田谷パブリックシアター
2024年11月22日(金)~11月24日(日)
会場 兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2024年11月28日(木)
会場 宮城県 東京エレクトロンホール宮城
本作の脚本を務めるのは、個性的な存在感でドラマ、映画、バラエティと大車輪の活躍をみせる佐藤二朗。俳優としてもさることながら、演劇ユニット「ちからわざ」の主宰を務め、全公演で作・出演を担当。佐藤が原作・脚本・監督を務めた映画「はるヲうるひと」(’21年)では第2回江陵国際映画祭 最優秀脚本賞を受賞。本作は2012年に上演された「ハラナイ荘の人々」以来、12年ぶりとなる書き下ろし新作戯曲。また、佐藤二朗が「その歌を聴いたのが始まりだった」と語るように、映画「竜とそばかすの姫」(’21年)でヒロイン・すず/ベルの声優を務め、劇中歌で注目を浴びたミュージシャン中村佳穂さんの「そのいのち」(’18年)にインスパイアされ執筆した。
スタッフ
脚本:佐藤二朗
演出:堤泰之
美術:田中敏恵
照明:倉本泰史
音響:秦大介
選曲:樋口亜弓
衣裳:伊藤佐智子
ヘアメイク:千葉友子
演出助手:糸原舞
舞台監督:赤坂有紀子
宣伝:る・ひまわり
宣伝統括:友岡伸介
宣伝美術:菅原麻衣子(ycoment)
宣伝写真:伊藤大介
宣伝衣裳:伊藤佐智子
宣伝ヘアメイク:千葉友子
票券:岸田いずみ
制作協力:ycoment
制作:高村楓
ラインプロデューサー:北原ヨリ子
プロデューサー:白木啓一郎
チーフプロデューサー:渡邉愛幸
主催:関西テレビ放送/楽天チケット株式会社
企画製作:関西テレビ放送
出演
山田里見:宮沢りえ
相馬和清:佐藤二朗
相馬花(Wキャスト):佳山明 / 上甲にか
and more!
1969年5月7日、愛知県春日井市生まれ。4歳から愛知郡東郷町で育つ。 1996年、演劇ユニットちからわざを旗揚げ。全公演で作・出演。以降、多数の映画・ドラマに出演する。また「ケータイ刑事銭形シリーズ」(’02年)、「恋する日曜日」(’03年)、「家族八景」(’12年)、「〜2013新春特別企画〜だんらん」(’13年)などのドラマ脚本を執筆。映画「memo」(’08年)、映画「はるヲうるひと」(’21年)や、ドラマ「私たちがプロポーズされないのには101の理由があってだな」(’14年)では脚本・監督。原作・脚本・監督を務めた映画「はるヲうるひと」(’21年)では、韓国の江陵国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞。2024年12月20日に公開を控えている「聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団」にも出演している。
32
この記事はいかがでしたか?
1記事10回までリアクションできます
RECOMMENDED TAGS
REAL TIME RANKING
CHEER RANKING