相葉雅紀 主演舞台「グッバイ、レーニン！」開幕！「温かい嘘に愛を感じた」

相葉雅紀が主演する舞台「グッバイ、レーニン！」が3月9日、東京・渋谷のPARCO劇場で開幕。それに先立ち、プレスコールと開幕前会見が行われました。

あるシーンに登場した相葉は、Tシャツの上にシャツを羽織ったラフなスタイルで、いつもの優しい雰囲気をまといながらも、心に何か強いものを秘めた様子をうかがわせます。相葉が演じるアレックスの父親役の山崎一が、「ここは変わらない。ここにまた来ることを何度も夢見たよ。この空気、切り倒された白樺の香り……」と話を始めると、「西ベルリンには白樺はないの？」と相葉がポツリとつぶやきます。「グッバイ・レーニン」の物語にとって、このやりとりはとても象徴的なものです。アレックスの一家は旧東ドイツの住人で、彼らの父親は旧西ドイツに亡命していました。そして東西ドイツが統一された今、父は、自分が置いてきた妻と家族の元にやってきたのです。ここで語られた“白樺”は、それぞれの国が持っていたイデオロギーと人々の価値観、西側が失ったもの、東側に残っていたものの象徴のようにも聞こえます。それだけ相葉のつぶやきは思いのこもったもので、アレックスの心情を静かに、強く、伝えていました。

舞台「グッバイ・レーニン！」は、2003年にドイツで公開された同名映画を元に作られた作品で、映画は公開時にドイツで600万人以上を動員。国内外の映画賞を数多く受賞し、ゴールデングローブ賞の外国語映画賞にもノミネートされました。舞台版は、映画の脚本も手がけたベルント・リヒテンベルクによって2021年に初演。西と東の政治的な背景だけでなく、コメディー要素を盛り込んだハートフルな家族の物語として描かれています。

上村聡史の演出で日本初演となる今回の作品も、ドイツが東と西に分かれていた頃を舞台にストーリーは始まります。主人公のアレックス（相葉雅紀）は、母クリスティアーネ（堀内敬子）と姉のアリアーネ（松岡依都美）の3人で東ベルリンに暮らしています。父はアレックスが幼い頃に西ドイツに単独亡命していて、以来一家は父のいない生活を続けていました。アレックスには、西に憧れる気持ちも、亡命しようなどという思いもありませんが、東ドイツ建国40周年記念日である1989年10月7日の夜、家族に内緒でなんとなく反体制デモに参加。警官ともみあっていたところを偶然通りかかった母に見つかってしまい、母はそのショックから心臓発作を起こして昏睡状態に陥ってしまいます。

そしてある日、突然目を覚ました母に、アレックスはある“嘘”をつきます。実は母が眠っている間にベルリンの壁崩壊という世紀の一大事件が起こり、東西ドイツは統一されました。しかし、アレックスと姉のアリアーネは、母が混乱しないように、近所の人たちを巻き込み、東西ドイツが統一したことをひた隠しにします。アレックスは、友達になった元西ドイツの人間だったデニス（浅利陽介）も巻き込み、映画監督志望のデニスと共に“嘘”の情報を母に伝えます。

西側の匂いをかき消すためのドタバタがコメディータッチで描かれた本作。言ってしまえばアレックスは体制を欺いているわけで、結構なパンク精神ですが、家族を思う優しさが全面に伝わるのは、その演技力と“相葉雅紀”という存在感によるものでしょう。ある日、1人で外に出たクリスティアーネが、街の様子が変わっていることに気付いてしまい、夫・ロベルト（山崎一）に会いたいというクリスティアーネのためにアレックスは父に会いに行きます。

プレスコールで公開されたのはここからの場面で、長いこと会っていなかったクリスティアーネとロベルトが、家族の思い出の森の小屋で再会を果たします。アレックスは父に、「西から東に難民が押し寄せてくるとママは信じてる。僕は、パパも帰ってくるかもしれないよとママに言った」と切々と訴えます。

再会し、二人だけで時を過ごす母と父を、別室で心配するアレックスと友人たち。雲行きが怪しい天気にも、「通りすぎるさ、街では雨が降っていても、ここは晴れる」と言うアレックスの言葉には祈りにも似た響きを感じます。その裏では、デニスの指揮の元、クリスティアーネに信じ込ませるための架空のニュース中継の準備が勧められています。友人たちが集まり、クリスティアーネが感謝のスピーチをし、みんなでテレビ放送を見ることになります。

クリスティアーネは、「なぜわざわざテレビを運んできたのかわからないけど」と、何かを知っていそうな雰囲気ですが、アレックスは、「状況が状況だから、今起きてることをちゃんと確認しないと」と、母への優しい嘘を続けます。しかし、実は、母親が再入院した際に姉のアリアーネが全ての真実をすでにクリスティアーネに話していたのです。母は途中からアレックスの嘘を信じるフリをしていた。思いやりの連鎖は、やがて家族の温かな結末へと向かっていきます。