小瀧望が生きる意味を探す死神に。主演ミュージカルで繊細な魅力放つ

小瀧望が主演するミュージカル「DEATH TAKES A HOLIDAY」の東京公演が、本日9月28日に東急シアターオーブで開幕。先立って公開ゲネプロが行われました。

WEST.での活躍の一方、2020年に「エレファント・マン」に主演して第28回読売演劇大賞の優秀男優賞・杉村春子賞を受賞するなど、舞台俳優として高く評価されている小瀧。「DEATH TAKES A HOLIDAY」は1924年のイタリアの戯曲からたびたび舞台化された作品で、1998年にはブラッド・ピット主演で「ジョー・ブラックをよろしく」として映画版のリメイクもされています。

第1次世界大戦からスペイン風邪のパンデミックと続き、多くの命が失われた時代を経た1920年代初めの物語。小瀧さんが演じたのは、ひとり孤独に死せる魂を“あちら側”へと導き続けることに疲れ果てた死神。2日間の休暇を取り、人間としてひとときを過ごします。

響き渡る歌声と不気味な動き

深夜、イタリア北部の山道を飛ばす1台の車。乗っているのはランベルティ公爵一家で、ひとり娘のグラツィア（山下リオ / 美園さくらとWキャスト）の婚約をヴェニスで祝った帰りです。にぎやかにはしゃぐ一行ですが、突如現れた闇にハンドルを取られて車がスピンし、グラツィアは夜の道路に投げ出されてしまいました。

そこに天から現れたのが、黒ずくめに黒マスクの死神。小瀧が「彼女の鼓動が冷たいこの手を惑わせる」と広い会場に響きわたる声で歌い上げ、グラツィアは大事故に遭いながら何ごともなかったように立ち上がりました。

死神はグラツィアの父親のヴィットリオ・ランベルティ公爵の前に現れると、おののかれながら「知りたいだけなのだ、人生とは何か」「なぜ失うことを怯えながら生きるのか」と歌います。死神の勤めを忘れて休暇を取る週末の2日間を、公爵一家と共に過ごすことを迫りました。

小瀧の歌は芯が通って迫力があります。同時に、死神として肩をいからせ両手を広げながらしゃべる動きには、人間的でない不気味さを感じました。

皇子の姿で人間として心を弾ませて

死神は、カジノで負けて自死するというロシアの皇子・サーキの姿を借りて、客人として公爵家を訪れます。彼が死神であることを知るのはヴィットリオと、2人の話を聞いていた執事のフィデレだけ。

ようやく顔を見せた小瀧は、白い軍服姿が長身に映え、颯爽と皇子らしい振る舞いを見せていきます。公爵の家族からメイドまで、家の女性たちを一瞬で虜に。婚約したばかりのグラツィアも「この国の女性がこんなに美しいとは」と手の指にキスされて、「あの人、とってもすてきだわ」と目を輝かせていました。

翌日、パジャマ姿でベッドで目を覚ましたサーキは、人間として初めての朝を迎えます。朝食で出された目玉焼きを指でつまみ、「これは一体何なんだ？」と言いながら、ベッドの上で跳ねて歌いました。「太陽の光を体中に浴び、私は今生きている」と、2日間の休日に心が弾むのを抑えきれないように。

タップダンスに切ないデュエットも

スリーピースのスーツ姿でバルコニーに現れて、女性たちの手を取って踊ったり、湖畔でグラツィアと2人になって、「キミの目を見たい」と頼んだり。死神は人と触れても見つめ合っても相手が死んでしまうため、これも彼には初めての経験でした。

ダンスを教わるシーンでは、最初は見よう見まねの様子から、軽快なタップを披露。笑顔を浮かべながら、キレキレの踊りでリズミカルな靴音を響かせていました。

公爵家の人たちと触れ合い、生きることの喜びを知っていく死神のサーキ。その中で、「僕にはわからない。いつか恋に落ちるかも、愛してくれる人がいるのかも」と言っていた彼が、グラツィアと強く惹かれ合っていきます。

かつて結ばれない恋人の2人が、永遠に一緒にいられるただひとつの道として死を選んだという湖の“悲劇の洞窟”に赴いたサーキとグラツィア。手を取り合って、切々としたバラードに伸びやかな声を重ねたデュエットは、情感がこもって胸を打ちました。そして、死神の休暇が終わる午前零時が近付いてきます……。

ハードスケジュールでも「どうしてもやりたくて」

報道陣に向けた囲み取材では、小瀧は今回のミュージカルについて、「過去イチでいっぱいいっぱい」と話していました。稽古が始まった頃は、WEST.のドームツアーやフェス出演など、いろいろ抱えていたとのこと。

「僕はライブというものが一番好きなんです。（音楽の）ライブもあれば、舞台も生のもの。お客さんの目の前で、表現したり伝えるのが好き。今回のお話をいただいたときも、スケジュールが厳しいことはわかっていても、どうしてもミュージカルをやりたくて、迷わず出演を決めました」

初挑戦のタップについて、「稽古の初日は絶望しました（笑）」とも。「見るとできそうかなと思っていたんですけど、やると本当に難しくて。タップシューズを履くのはほぼ初めてで、1からのスタート。心が折れそうになりながら、1回2時間のレッスンに集中して頑張りました」と回想します。上達は目覚ましかったようで、ソロのタップは簡単なステップから難しいものに変わったそうです。

作品全体を俯瞰して捉える力に評価

演出の生田大和は小瀧について、「舞台映えする体格を持っていながら、演技はすごく繊細。役作りが深い。作品全体を客観的に俯瞰して捉える力に、助けていただきました」と評していました。

グラツィア役のWキャストの美園も「ドンと構えて受け止めてくださる安心感があります」と称賛。サーキとしては「陰のあるミステリアスな魅力を立っているだけでも感じました」と語りました。

ちなみに、小瀧にとって最高の“HOLIDAY”は、「姉の子ども、姪っ子に会いに行きたい。毎日のように写真や動画が送られてきます」とのことでした。

東京公演は10月20日まで。大阪公演は11月5から16日に梅田芸術劇場メインホールで行われます。小瀧は「ファンタジーにたくさんの魅力が詰め込まれているミュージカル。最後まで走り切るのは大変な印象ですけど、すごい達成感と得るものがあると確信しています」とキッパリ。「耳で聴いて目で見て全身で楽しんでいただけたら」とアピールしました。