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なぜ私たちは松下洸平に“沼る”?「放課後カルテ」含む出演作から考察

2024年10月26日 15時00分

特集

“松下洸平沼”をじっくり解説

“松下洸平沼”をじっくり解説

近年ドラマ出演が絶えない松下洸平さん。10月12日にスタートした「放課後カルテ」(日本テレビ)では、ついに地上波ドラマ単独初主演を果たしました。この記事では、松下さんがこれまでに演じてきた役どころを振り返りつつ、私たちがなぜ彼に“沼って”しまうのかを考察。放送中の「放課後カルテ」の見どころも紹介します。

俳優活動開始から10年、「スカーレット」で大ブレイク

1987年生まれ、現在37歳の松下洸平さんは、2008年、絵を描きながら歌う“ペインティング・シンガーソングライター”としてデビューしました。そして2009年、ブロードウェイミュージカル「GLORY DAYS」の日本語版に西島隆弘さんらと共に出演したことをきっかけに、舞台やミュージカルを中心とした俳優活動をスタートさせます。

舞台俳優として、2018年に「文化庁芸術祭賞」演劇部門の新人賞、2019年に「読売演劇大賞」優秀男優賞・杉村春子賞を受賞した松下さん。広くお茶の間に知れ渡るきっかけとなったのは、2019年から2020年にかけて放送されたNHKの連続テレビ小説「スカーレット」で、ヒロインの夫・十代田八郎を演じたことでした。

それまでにも舞台での活動の傍ら、「もう一度君に、プロポーズ」「カラマーゾフの兄弟」「家族の裏事情」「家政夫のミタゾノ」など連続ドラマへの出演を重ね、朝ドラのオーディションには何度も挑戦したものの、落選が続いたといいます。

ようやく勝ち取った「スカーレット」の八郎は、その魅力で多くの視聴者をとりこにし、SNSでは「#八郎沼」というトレンドワードが生まれるほどの当たり役に。松下さんの俳優活動開始から10年のことでした。

その後は、「#リモラブ〜普通の恋は邪道〜」「最愛」「やんごとなき一族」「合理的にあり得ない〜探偵・上水流涼子の解明〜」などさまざまな連続ドラマで、主人公の恋人や夫、相棒など主要な役どころにひっぱりだこ。2023年には、春、夏、秋と3クール連続での連続ドラマレギュラー出演、また2024年にはNHK大河ドラマ「光る君へ」への出演を果たすなど俳優として多忙を極める中、その役柄は次々と視聴者を惹きつけ、“沼る”と話題になっています。

なぜ私たちはこんなにも、松下さん演じるキャラクターたちに夢中になってしまうのでしょうか? これまでに松下さんが演じた役の例をいくつか挙げながら考えてみたいと思います。

繊細な感情を丁寧に。松下洸平の演技に心動かされる理由

まず触れたいのは、先述のとおり松下さんのブレークのきっかけとなった、「スカーレット」。信楽焼で知られる滋賀県・信楽の地で、女性陶芸家の草分けとして歩み始めるヒロイン・川原喜美子の半生を描いた作品です。松下さんが演じた八郎は、戸田恵梨香さん演じる喜美子が陶器製造会社で働いていた当時の同僚から、のちに夫となる役どころでした。

「付き合っていない相手を名前では呼ばない」など、とことん誠実で真面目でありながら、時折ぐっと距離を詰めてくるギャップには、心奪われる視聴者が続出。また、当初は喜美子に陶芸を教える側だったはずの八郎が、徐々に開花してゆく彼女の才能に覚える嫉妬、うまくいかない自身の作陶への苦悩、陶芸にのめり込む妻と心の距離が離れていく寂しさといった繊細な感情を丁寧に演じきった手腕は、見事の一言でした。

2021年に放送された「最愛」は、松下さんの「エランドール賞」新人賞受賞につながった作品です。作品そのものも、作り込まれた脚本と優れたキャラクター造形で人気を博し、数々のドラマアワードを受賞しました。

今作で松下さんが演じた宮崎大輝は、吉高由里子さん演じる主人公・真田梨央の幼なじみ、初恋の相手であり、彼女が重要参考人となった殺人事件の真相を追う刑事。大輝も八郎と同様、刑事としての正義感の裏にさまざまな複雑な思いを抱えた役柄でした。

学生時代、互いに惹かれ合いながらも運命のいたずらで離れ離れになった切なさに始まり、15年の時を経て当時とは別人のように振る舞う彼女を目の前にした戸惑い、好きだった相手やその周囲の人々を疑わなければならないつらさ、本当は事件の渦中にいる彼女の心を支えたいという葛藤……。

松下さん演じる大輝を見ていると、その内に秘めた思いが手に取るように伝わってきて、視聴者のほうも胸をかきむしられるような切ない思いにさせられました。

2024年春クールに放送された連続ドラマ「9ボーダー」では、記憶喪失の青年・コウタロウ役を演じました。川口春奈さん演じる主人公・大庭七苗のもとに突然現れ、「俺のこと、好きになっていいよ」などと甘くささやくコウタロウはかなりフィクション性が高く、ともすれば「こんな人、現実に存在しない!」とうそくさく見えてしまいかねない難しさのある役だったように思います。

ですが、松下さんの肩の力の抜けた飾らない演技によりぐっとリアルな存在感が生まれ、きゅんとさせるようなドラマチックさとのバランスがちょうどよく取れたキャラクターに仕上がっていることが印象的でした。

松下洸平が体現する“オルタナティブな男性像”

ここに挙げた八郎、大輝、コウタロウをはじめ、松下さんが演じてきたキャラクターから共通して感じるのは、包み込むような懐の深さ、優しさ、温かさです。

「スカーレット」の喜美子は、女性の生き方に変化が訪れた戦後から高度経済成長期の頃にかけて、荒波にもまれながらも陶芸家としての道を切り開いた女性で、公式の紹介ではしばしば「究極の働き女子」と評されています。

「最愛」の梨央は、自分や周囲の人々が殺人事件の参考人として疑いをかけられる中、自身が代表取締役を務める製薬会社で、長年の夢であった新薬の承認に向けてまい進する実業家。「9ボーダー」の七苗もまた、飲食店のプロデュース会社で仕事に打ち込んでいたものの行き詰まりを感じて退職。その後は一念発起し、姉妹たちと力を合わせて、実家の銭湯の再興に奮闘します。

そうして自らの道で懸命に励む彼女たちを、いつも近くで見守っていたのが、松下さん演じる男性たちでした。彼らは、従来“男性っぽさ”としてとらえられていた、強さやリーダーシップ、ワイルドさといったものとは真逆ともいえる、柔らかさ、献身、繊細さにあふれています。そうしてそれらは、広がりと奥行きと、少しの湿度をたたえた松下さんの声や、優しげな印象を与える目元、そして機微をうがった演技力こそが感じさせてくれるもののように感じます。

「9ボーダー」では、松下さんがコウタロウとしてドラマ内で歌唱するシーンがありました。特によく歌っていた歌は、スズキ「アルト」のCMソングとしても使われていたHARCOの「世界でいちばん頑張ってる君に」。そのサビの歌詞が「僕は知ってるよ / ちゃんと見てるよ / 頑張ってる君のこと / ずっと守ってあげるから」というものであったことは、これまで松下さんが演じてきた数々のキャラクターを象徴しているように感じました。

また、松下さんは2023年2月から、芳根京子さんと共に「日本のみなさん、おつかれ生です。」のキャッチコピーで知られる「アサヒ生ビール」のCMキャラクターを務めています。仕事に暮らしに奮闘する「日本のみなさん」に「お疲れさま」と声をかけるこの役に松下さんが任命されたのは、その唯一無二の癒やしの力あってこそではないでしょうか。

これまでの“男性っぽさ”とは違うオルタナティブな男性像を体現している、それが松下洸平という俳優なのではないかと思います。

笑わないのに、ちゃんと優しい。単独初主演作「放課後カルテ」

頑張る女性主人公たちを支える最高の助演俳優として私たちの心をつかんできた松下さんが、2024年10月から放送の「放課後カルテ」で、ついに連続ドラマ単独初主演を務めます。

本作で松下さんが演じるのは、産休で不在となった養護教諭の代わりに校医として小学校に赴任した、内科医の牧野峻です。全校へ向けた初日のあいさつで「保健室にはなるべく来ないでもらいたい」と言ってのけるなど、ぶっきらぼうで先生たちにあきれられ、児童たちには怖がられる。穏やかで優しいイメージの役柄を多く演じてきた松下さんにとっては、珍しいタイプのキャラクターです。

第一話を視聴してみると、牧野は終始しかめ面で、他の教員に「笑顔ですよ、笑顔!」とうながされて、鏡の前で頬をひきつらせながら笑う練習をするシーンもありました。

それでも、松下さん演じる牧野からは、確かに“優しさ”を感じます。ほんのわずかな声のトーンや抑揚、視線の動きや表情から、目の前にいる、さまざまな問題を抱えた児童たちを案ずる気持ち、少しでも力になりたいと願う気持ちがにじみ出ているように感じられるのです。笑っていないのに、ちゃんと優しい。松下さんが演じたからこそ、牧野はそんなキャラクターになったといえるかもしれません。

今後の「放課後カルテ」では、牧野が児童たちと向き合いながら、自身が過去に抱えた心の傷とも向き合っていく様子が描かれることが期待されます。松下さん演じる牧野が他のキャラクターたちと交流しながらどんな表情を見せてくれるのか、最後まで目が離せません。

文:原里実

松下洸平(Kouhei Matsushita)

1987年3月6日生まれ、東京都出身。2008年、洸平名義でシンガーソングライターとしてデビュー。翌年より俳優活動を始め、NHK連続テレビ小説「スカーレット」でヒロインの夫、八郎を演じ人気を博す。主な出演作はドラマ「最愛」('21年)「アトムの童」('22年)「合理的にあり得ない〜探偵・上水流涼子の解明〜」('23年)「いちばんすきな花」('23年)、映画「燃えよ剣」('21年)「ミステリと言う勿れ」('23年)、舞台「カメレオンズ・リップ」('21年)「夜来香ラプソディ」('22年)など。俳優としての活動の傍ら、2021年にシングル「つよがり」で再デビュー。2022年には二度のデビューを通じて初となるフルアルバム「POINT TO POINT」をリリース。2023年12月にリリースした2ndアルバム「R&ME」を引っ提げ、2024年1〜3月に東京ガーデンシアター2DAYSを含む自身最大規模の全国ツアーを開催。4thシングル「愛してるって言ってみてもいいかな」を2024年11月6日にリリース。主演ミュージカル「ケイン&アベル」が2025年1月から東京と大阪で上演される。

松下洸平 official web
松下洸平(Kouhei Matsushita)

放課後カルテ(日本テレビ系)

2024年10月12日(土)スタート 毎週(土)21:00~21:54

 

小学校の保健室に、校医として赴任した内科医の牧野峻。初日から全校児童の前で「保健室にはなるべく来ないでもらいたい」と言ってのけるなどとことんぶっきらぼうで、同僚の教師にはあきれられ、児童たちには怖がられる。しかし、その類稀なる観察眼で、児童たちの“言葉にできないSOS”を次々と見抜いていく。煙たがられていたはずの牧野が、子どもたち、その家族、時には教師までも救っていく、保健室ヒューマンドラマ。

 

出演
松下洸平 / 森川葵 / ホラン千秋 / 加藤千尋 / 高野洸 / ソニン / 塚本高史 / 武田真一 / 六角慎司 / 平岡祐太 / 吉沢悠 / 田辺誠一

放課後カルテ|日本テレビ

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