2024年11月30日 15時34分
特集
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高橋留美子の“るーみっくわーるど”の革新性を解説!
2024年6月まで放映された「うる星やつら」に続き、10月から「らんま1/2」の新作アニメ放送もスタートし、注目度がますます高まっている漫画家・高橋留美子。「犬夜叉」にハマった20~30代の推し楽ユーザーも多いのではないでしょうか。
今回の記事では、“るーみっくわーるど”と呼ばれる高橋留美子作品の中でも初期の連載作品を中心に、当時の革新性や見どころについてご紹介します!
まず高橋留美子の“るーみっくわーるど”を語るうえで欠かせないのが、商業誌初連載作品であり、1978年に「週刊少年サンデー」で連載がスタートした「うる星やつら」です。
地球を侵略するためにやってきた鬼型宇宙人の代表・ラムが、浮気性な性格の高校生・諸星あたる(以下:あたる)からプロポーズをされたと勘違いし、そのまま諸星家の居候となったことから始まるSF学園ラブコメディー。
なにより「うる星やつら」が当時の少年たちをとりこにしたのは、魅力的な女性キャラクターたち。特に連載初期には鬼型の異星人であるラムは妖艶さをまとった顔立ちになっており、あたるの同級生・しのぶの同世代らしいかわいさとは対照的で、虎柄のビキニという露出度の高い服装も異種族ならではの超常的な存在としての演出に一役買っています。これが連載を重ねるにつれ、読者が自己投影するあたると同じ世代の女の子らしさが加わり、年齢相応の少女らしい魅力的な表情を見せるようになっていきました。
その後、男勝りな弁天、大人の魅力に満ちたサクラ、和装が似合うクールなおユキに、二重人格なラン、男性として育てられ女性らしさに憧れる竜之介とビジュアルも性格も多種多様な女性キャラクターが登場するさまは、現代まで続く“ラブコメ”の原型と言えるでしょう。前述の女性キャラに限らず、“女好きだけど根は正直で優しい主人公”のあたるをはじめ、“金持ちの美形だがいけ好かない性格をしたライバル”の面堂終太郎といった配置は、現代にいたるまで数々のマンガやアニメ、ゲームなどでリスペクトと共に踏襲されてきました。
ヒロインのラムも「あたるのことが好き」という軸はブレることがないものの、あたるの気を引くために他の男性に興味があるふりをしたり、浮気癖を矯正するための策を講じたりと、それまでの少年マンガに多かった学級委員的な“トロフィーガール”とも、黙って男に従う“いい子”なヒロイン像とも異なり、積極的に行動を起こしていきます。こうした感情をストレートに表し、ときに嫉妬から雷撃などの過激な行動までしてしまうラムのキャラクターは、1981年から始まったアニメの放映でさらに広いファンを獲得。男性はもちろん女性からも愛される国民的キャラクターへとなっていったのです。
また「うる星やつら」が優れていたのは、こうしたキャラクターの魅力だけではありません。ラムを“鬼型の異星人”と設定したことにより、SFや民間伝承、オカルトにファンタジーとさまざまな要素が絡み合ったカオスな世界観を構成。連載冒頭の1話~数話のエピソードを積み重ねながら、さまざまなバックボーンを背負ったキャラクターを登場させ続け、9年間の連載を破綻させることなく閉じていく終盤の流れは圧巻の一言! こうしたストーリーの魅力は、優れたSF作品をファン投票で選ぶ「星雲賞」のコミック部門を1987年に受賞したことにも表れています。
そして最後に、当時のマンガ業界は“少年マンガは男の子が読むもの(=女の子が読むものではない)”とされており、女性漫画家が少年マンガ誌で執筆するにあたっては、男性名義のペンネームで執筆することも珍しくありませんでした。そんな当時の風潮の中で、高橋留美子が「高橋留美子」として少年漫画誌で大ヒット作品を送り出したのは、業界にとっても大きな転換点となったと言えるでしょう。
2022年に放送された再アニメ版は、オリジナル要素が多かった旧版アニメに対して原作に沿った展開が特徴で、“るーみっくわーるど”の入門にぴったり! ラムの髪の色も旧版では緑になっていましたが、アニメの製作技術の進歩で光の射し方や髪の動きによって変化する、蝶の羽のような“構造色”も表現されています。
「週刊少年サンデー」で連載していた「うる星やつら」が大ヒット作品となった真っ最中、1980年の10月に創刊した「ビックコミックスピリッツ」(当時は月刊誌)で連載が始まったのが、「めぞん一刻」でした。
©高橋留美子/小学館
はちゃめちゃな住人たちが集まる古いアパート・一刻館で、上京して一人暮らしをしている浪人生の五代裕作(五代くん)が、アパートの新しい管理人としてやってきた音無響子(響子さん)に恋心を抱き、一人の男性として成長しながら心を通わせていくストーリー。と、ここまで書くとなんの変哲もないラブコメの設定に思えますが、異色だったのはヒロインである響子さんの“未亡人”というバックボーン。
青年誌での連載とはいえ、当時はまだ女性に対して純潔・清純であることが求められる時代。20歳になるかならないかの主人公の、思いを寄せる相手が未亡人というのは衝撃的な設定でした。途中から響子さんに積極的にアプローチをかける、テニスクラブでコーチをしている三鷹瞬(三鷹さん)というキャラクターも登場するのですが、響子さんの心が亡夫である惣一郎さんに向いているため、五代くんと三鷹さんの争いが空振りに終わる展開も起こることに。
このような惣一郎さんへの思いがあるがゆえに響子さんが五代くんの気持ちに応えられない姿は、女性に対して矛盾した純潔や貞操を求める昭和の男性社会に対して「未亡人は新しい恋に生きてはいけないのか?」という、女性作家である高橋留美子からの痛烈なメッセージであるようにも読み取れます。
しかもこのような高橋留美子の皮肉は、男性にだけ向けられたわけではありません。物語の序盤から中盤にかけて一介の浪人生だった五代くんが、一人の社会人・男性として成長を遂げると、一転、今度は「大人の女性」を象徴していた響子さんの未熟さや幼さがクローズアップされていきます。終盤、五代くんに裏切られたと勘違いをした響子さんは彼を拒絶してアパートの管理人もやめると言い出します。そんな彼女をたしなめたのは、ことあるごとにふたりの仲を茶化して楽しんでいた一刻館の住人である朱美さんでした。彼女は「ろくに手も握らせていない男のことで、泣くわわめくわ、どうなってんの」と、響子さんが無自覚に五代くんをキープ扱いしている都合のよさを、同性の視点で真っ正面から突きつけるのです。
男性向けマンガのヒロインが主人公を含めた男性を選り好みするのは、“選ばれる側のヒロインの特権”のようなものではあるのですが、それはハタから見る女性にとっては鼻持ちならない態度に映る、ということを作中のキャラクターに言わせてしまうのが高橋留美子の恐ろしさ! 男性の漫画家ではなかなか描けないこの“女のやりとり”を経たことで、響子さんは自分の気持ちに素直に従うようになり、響子さんと五代くんの間にあったいびつな上下関係が解消されて、対等な男女としての関係が築かれるきっかけとなっています。
また「めぞん一刻」がファンを惹きつけてやまない理由に、心に残る名場面の数々があります。物語の中盤、五代くんと響子さんが結婚へと進むにつれ、五代くんのおばあちゃんが響子さんに自分の指輪を渡す場面や、響子さんの再婚に反対し続けた父親の叫び、五代くんのプロポーズに対する響子さんの返答、そして何よりも読者の心を打った五代くんが墓前で惣一郎さんに語る決意——怒涛のように続く名場面が待っています。それも決して特別なところのない、ごく普通の人たちの、ごく身近にありそうな思いや言葉の数々が胸に迫る、極上のヒューマンドラマが展開されていくのです。
©高橋留美子/小学館 ©椎名高志・高橋留美子/小学館・読売テレビ・サンライズ2020
新潟県出身、10月10日生まれ。1978年に「勝手なやつら」で商業誌デビューを果たす。1978年より連載を開始した「うる星やつら」はTVアニメ化もされる国民的ヒット作品となり、小学館漫画賞少年部門(1981年)を受賞。以降も「めぞん一刻」や「らんま1/2」「犬夜叉」「境界のRINNE」などの大ヒット作を世に送り出し、2024年10月現在も「MAO」を「週刊少年サンデー」で連載中。マンガ業界に留まらない高い功績から、2020年の紫綬褒章をはじめ、国内外で数々の賞を受賞している。
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