2024年11月30日 15時34分
特集
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高橋留美子の“るーみっくわーるど”の革新性を解説!
国民的人気作品となった「うる星やつら」が連載を終了した1987年、半年ほどの間を置いて「週刊少年サンデー」での連載が始まったのが格闘ラブコメディー「らんま1/2」です。
©高橋留美子/小学館
父・玄馬と共に中国の修行スポット・呪泉郷(じゅせんきょう)を訪れた早乙女乱馬は、1500年前に若い娘が溺れた悲劇的伝説を持つ“娘溺泉”に落ち、水をかぶると女になる特異体質になってしまいます。日本に帰国した乱馬は父の友人・天道早雲の3人の娘と引き合わされ、婚約者として1人を選ぶように言われます。周囲の薦めでなし崩し的に三女・あかねと婚約することになるのですが――といった内容です。
今年10月から放送中の新作アニメをご覧になっている人も多いかと思いますが、なにより秀逸なのが水とお湯をかけることで男女の性別が変化する「早乙女乱馬(男・乱馬 / 女・らんま)」というキャラクターのデザイン。男女の性別が入れ替わるというと、男が厚化粧を施しただけであったり、逆に耽美系の美少年or美少女になってしまうマンガが多い中、アウトラインはそのままに男子の爽やかな凜々しさと、女子のかわいらしさが両立した造型は驚異のバランス。しかも体型や骨格も男と女で描き分けられ、それも作中のネタになるという計算深さ。
そして乱馬とあかねの二人ともに格闘技の達人で、「格闘技」を中心に据えたストーリーながら倒すべき宿敵がいるわけでもないバランス感覚も絶妙! 少年誌の格闘マンガの王道であるトーナメント戦や“倒すべき宿敵(ラスボス)”などの展開に頼ることなく、新キャラクターや新拳法を織り交ぜながら、日常生活主体の「学園格闘コメディー」を成立させていきました。
ちなみに「らんま1/2」を題材にした対戦格闘ゲームも作られていますが、男女のキャラクターが登場する対戦格闘ゲームの大ヒット作「ストリートファイターII」が世の中に登場したのは1991年と「らんま1/2」の連載よりも後のこと。むしろ、その後の対戦格闘ゲームで男女混合での対戦や既存のスポーツで戦う対戦格闘ゲームのキャラクターが登場したことには、「らんま1/2」の影響を大いに受けた作品が多数あったのではないかと推測できます。
また、「らんま1/2」を語る上で避けて通れないのが肌の露出が多い点。男女の性別チェンジという内容を扱う関係から、らんまが胸元をはだけさせて自身の性別を確認したり、人以外に変化する呪泉郷の呪いを受けたキャラクターが人間に戻る際に裸になってしまったりと、露出度の高さが特徴となっています。
女性キャラクターの裸は、思春期の男子がメインの読者である少年誌では「読者サービス」などと呼ばれる反面、女性読者からは嫌悪感を持たれることも多いのですが、男性感覚で上半身の露出をまったく気にしないらんまをはじめ、肌の露出よりも戦いに集中するキャラクターたちの凛々しい姿に、裸であることを忘れてしまう場面も多数。さらに高橋留美子が描く裸は同性が描く影響もあって女性には嫌悪感を持たせないのか、熱烈な女性ファンの多い作品でもありました。露出の多いマンガが「有害図書」として槍玉に挙げられた1980年代後半~1990年代に連載されていたのにもかかわらず、「らんま1/2」が問題になったという話をほとんど聞いたことがない、不思議な存在になっていたほどです。
ちなみに、「らんま1/2」の累計発行部数は5500万部を超え(2021年6月時点)、全世界で2億3000万部を超える高橋留美子作品の中で、単体での最多発行部数を誇っています。さらに、連載当時に発行されたコミックスを完全復刻し、新規に描き下ろされた複製原画などをセットにした「らんま1/2 SSC完全復刻BOX」が2025年2月に発売されることになり、ファンの注目を集めています。
©高橋留美子/小学館
「うる星やつら」に続き、大ヒット作となった「らんま1/2」の連載が終了した1996年。さすがに充電期間を置くだろうというファンの予想をうれしくも裏切って、1年と経たずに高橋留美子が始めた連載が「犬夜叉」です。
©高橋留美子/小学館
妖怪のはびこる戦国時代にタイムスリップした神社の娘・日暮かごめが、自らの体内に封じられていた強大な妖力を持つ「四魂の玉」のかけらを回収するため、半妖(人と妖怪の子)の犬夜叉と共に旅立つ恋と冒険の物語。
と、冒頭の展開からもわかるように、「うる星やつら」「めぞん一刻」「らんま1/2」と続いていた1話~数話完結のショートコメディーのスタイルから一変、高橋留美子の連載としては初となる、壮大な物語がつづられる本格ストーリーマンガとなっています。とはいえ、暴走した犬夜叉をかごめが鎮めるまじない(?)が「おすわり」であるなど、適度にコメディー的な要素も織り込まれて重苦しいトーンが続くことなく読み進めることができます。
そもそも商業誌の連載作品としてはストーリーマンガ初挑戦ですが、高橋留美子はアマチュア時代に小池一夫の劇画村塾で学び、「人魚シリーズ」と呼ばれる伝奇ロマン的な連作読み切りを発表するなど、ストーリーマンガの素養も高いことはうかがえていました。
また「犬夜叉」がもう一つ、これまでの高橋留美子作品と大きく違うのが、魅力的な男性キャラクターの存在。従来作品でも「うる星やつら」の面堂終太郎や「らんま1/2」の九能帯刀、良牙など女性人気の高い男性キャラはいたものの、コメディー的な作風ゆえにどこか抜けたところのあるコミカルなキャラクターばかりでした。本作で登場する犬夜叉の兄・殺生丸は、それまでの“るーみっくわーるど”には珍しい完全にシリアスなキャラクターとして、圧倒的な実力と冷徹な性格で数多の女性読者のハートを射貫きました。
ちなみにこの「犬夜叉」からのスピンオフ作品として、アニメ「半妖の夜叉姫」が製作されており、コミカライズ版「~異伝・絵本草子~ 半妖の夜叉姫」の執筆を担当しているのは「週刊少年サンデー」で同じく妖怪モノの「GS美神 極楽大作戦!!」を連載した椎名高志。その奥様は高橋留美子の元アシスタントという縁があったりもします。
©椎名高志・高橋留美子/小学館・読売テレビ・サンライズ2020
今回ご紹介した「うる星やつら」から、現在「週刊少年サンデー」で連載中の「MAO」まで、歴代作品の中から選りすぐりのページを400ページのボリュームで収録しているのが「高橋留美子原画集 COLORS 1978-2024」です。今年3月に発売されたこの原画集は、ファンの間で大きな話題となりました。
©高橋留美子/小学館
約6時間にわたる高橋留美子へのインタビューや、作者自身が選んだ「めぞん一刻」や「うる星やつら」「らんま1/2」「犬夜叉」「境界のRINNE」のこだわりのシーン&コメント、高橋留美子の名言の数々などを収録。1978年のデビューから第一線で活躍し続けている高橋留美子の“るーみっくわーるど”を存分に堪能できる一冊となっています。
今回の記事ではご紹介できませんでしたが、禁欲的なシスターと食欲を抑えられないボクサーの恋を描いた「1ポンドの福音」や、不老不死の妙薬である人魚の肉を食べた青年の運命を描く「人魚シリーズ」、サラリーマンや主婦の何気ない日常から物語が始まる「高橋留美子劇場」など、“るーみっくわーるど”には珠玉の作品がまだまだあります!
近年になって高橋留美子作品にハマッたという方は、過去の作品もチェックしてみてはいかがでしょうか?
文:福嶋哲平(t-press)
©高橋留美子/小学館 ©椎名高志・高橋留美子/小学館・読売テレビ・サンライズ2020
新潟県出身、10月10日生まれ。1978年に「勝手なやつら」で商業誌デビューを果たす。1978年より連載を開始した「うる星やつら」はTVアニメ化もされる国民的ヒット作品となり、小学館漫画賞少年部門(1981年)を受賞。以降も「めぞん一刻」や「らんま1/2」「犬夜叉」「境界のRINNE」などの大ヒット作を世に送り出し、2024年10月現在も「MAO」を「週刊少年サンデー」で連載中。マンガ業界に留まらない高い功績から、2020年の紫綬褒章をはじめ、国内外で数々の賞を受賞している。
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