RMの葛藤と変化の記録。人間“キム・ナムジュン”の素顔を映し出す

リミットが近づき揺れる心

「本来の自分は気持ちの揺れが大きくてBTSのリーダーであることがそれを隠していた気がする。バランスを気にして……」「“人生はバランスが大事だ”が人生のモットー」。

「BTS 10th Anniversary FESTA」や「SUGA | Agust D TOUR ‘D-DAY’ THE FINAL」など、“BTSのRM”としての姿も合間に挟みつつ、アルバムの制作が進むと同時にキム・ナムジュンとしてエンターテインメントの世界から離れる日が近づきます。そうした中、思い切って不安定さを自覚してその旅路を楽しもうとしたけれど、やはり自分は不安定さを楽しめない人間だということを再確認したり、制作の過程で弱みをさらけ出せる・共有できる環境を得たことで共同作業をできるようになったりという、大きな変化を感じるようになっていきます。
ドキュメンタリーではよく「素顔」や「率直」がキーワードになることもありますが、RMは「今まで正直であろうと努力してきた」とそこでも思い悩みます。しかし、そんなときのSan Yawnの適度な距離感のコメントやアドバイスが心地よく、ある種のナレーションのような役割を果たしているようにも感じます。

そして自分が置かれている状況の中で“どのように生きていくか”という悩みと、“悩みつつ変化していきたい”という葛藤が感じられました。「10年芸能人をやっているけどカメラが苦手なときがある」「そういう人生を選んできたから」という逡巡も、やがて新しい結論へと導かれていきます。

アルバムに収録された曲「Domodachi」に参加したラッパー、リトル・シムズとの語らいでは、重くはないけれど核心を突くような会話が交わされ、「ここからまた新しい場所へ行くという宣言を読む機会のよう」という、アルバムリリースとその後の未来についての希望が感じられるようなフレーズもありました。

等身大の葛藤が共感を呼び起こす

監督によると、「Right People, Wrong Place」は「変な場所にいる人たち」というような意味だそう。

また監督は、「それぞれの人生の中では皆『自分』という存在が自然だけど、会社や集まりのように他の場所に行くと自分が不慣れだったり変だと思ったりもするじゃないですか。アルバムの制作期間中も、チームのみんなで見慣れない場所を歩きながらお互いが感じる感情について話をする場合が多かったんですよ。そんな瞬間の中で感じた考えや感情をそのまま盛り込んだ映画」とも語っています。

その言葉どおり本作は、スターでアーティストであるけれど、そのベースとなる“人間キム・ナムジュン”の姿がそのまま描かれたような、それによって観客も自然と共感できるような作品だと思います。

映画を見た後にもう一度アルバムを聴き直せば、また新たな風景が見えてきそうです。

文：DJ泡沫