2024年12月05日 13時00分
特集
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ROSÉ&ブルーノ・マーズ「APT.」キービジュアル
BLACKPINKのROSÉ(ロゼ)とグラミー賞常連のブルーノ・マーズという異なるバックグラウンドを持つ2人がコラボレートし、強烈な化学反応を生み出した「APT.」。ROSÉが12月6日にリリースするフルアルバム「rosie」の先行曲として配信されると、世界中のリスナーの心をわしづかみに。ミュージックビデオがYouTubeで再生回数5億回(2024年12月5日時点)を突破するなど、驚異的なヒットとなっています。
底抜けに明るい「APT.」は、なぜこれほどまでの熱狂を生んでいるのでしょうか。この曲が生まれた文脈、タイトルや歌詞に込められた意味などを考察していきます。
ROSÉの所属するBLACKPINKは、K-POPを代表する4人組ガールズグループ。2016年のデビュー以来、「かわいさ」よりも「かっこよさ」を身にまとい、“女がほれる女”として絶大な人気を確立してきました。
「DDU-DU DDU-DU」では弾丸を発するように闘志をかき立て、失恋ソングである「Kill This Love」では「弱い私に耐えられない」と言い放ち、世界中のファンに勇気を与えてきました。そんなガールクラッシュの代表格であるBLACKPINKにはリーダーがおらず、各々が「みんなが自分の役割を理解している」とチームの結束力をたびたび語っています。「それぞれのエネルギーが結合することで、BLACKPINKの調和が完成される」というのです。
一方で、BLACKPINKにとって2023年は“魔の7年”のジンクスに当たる年でした。K-POPアーティストと所属事務所の契約期間が最長7年であることから、この年に解散やメンバーの脱退といった節目を迎えたグループは数多く存在します。BLACKPINKも例外ではなく、ファンの間では解散や脱退の憶測が飛び交いましたが、2023年の12月にYGエンターテインメント(以下YG)との「グループ活動の延長契約」が発表されました。
ただ、この発表には「個人活動の契約終了」も含まれていました。4人はBLACKPINKを維持しつつも、自分の道を歩むことにしたのです。
JENNIE(ジェニー)、LISA(リサ)、JISOO(ジス)が個人レーベルを立ち上げる中、ROSÉはワーナー・ミュージック・グループ傘下のアトランティック・レコードとの契約を結ぶことを選択し、3人とはまったく異なる道に進みました。イギリスのカルチャーメディア「i-D」のインタビュー(*1)では、ソロ活動に向けてテイラー・スウィフトが相談相手となり、「自分を守りながら独立するための道筋を示してくれた」と明かしています。ROSÉにとって、これまで苦楽を共にしてきたチームから離れることは、そう簡単ではなかったのです。
*1: All The Way Rosé(iD)
https://i-d.co/article/rose-blackpink-interview-2024-rosie-apt-bruno-mars/
ROSÉはNetflixのドキュメンタリー「Watch BLACKPINK ~ライトアップ・ザ・スカイ」(2020年)で、「ただ歌うだけの歌手にはなりたくない、絶対に嫌」と語り、スタジオにこもって音楽制作する姿を見せていました。「自分の曲は自分をさらけ出す感じ」と照れながらも「君に電話をかけたのは3時すぎ、着信を見たときに……」という自身のリアルな恋愛経験を思わせるフレーズまで披露し、並々ならぬ創作意欲を見せていました。
ROSÉが新たに契約したアトランティック・レコードにはエド・シーランやブルーノ・マーズなど、スターが勢ぞろい。きっとROSÉはそんなレーベルメイトから刺激を受けて新たな道へ進むはずだ――という伏線(伏線にしては規格外の一発)が「APT.」によって鮮やかに回収されました。
最初に「APT.」を聴いたとき「え、ROSÉってこんな歌を歌うの? こんな顔するの?」と驚いた人もいるのではないでしょうか。
ROSÉといえば「ゴールデンボイス」とまで称される歌唱力と情感豊かな姿が印象に残るメンバーです。YGのオーディションでジェイソン・ムラーズの曲「I Won't Give Up」をギターで弾き語ったり、デビュー後にはピアノ伴奏でビートルズの「Let It Be」を披露したりと、そのたびに原曲に新たな魅力を加えるセンスが話題を集めてきました。2021年にリリースした「On The Ground」はミディアムテンポでしっとりとしたメロディー。「この人生、ずっと頑張ってきた ただ高みに登るために」「私が欲しいものは全部あの地上にあった」という切ないメッセージを乗せ、はかなさを体現しました。
グループ活動ではパワフルでかっこよく、個人としてはエレガントで情感豊か。そういったイメージがある中で、突如リリースされた「APT.」では、ブルーノ・マーズと爆笑しながら歌い踊る姿に衝撃を受けるファンが続出しました。
韓国の飲み会ゲーム「アパトゥ・ゲーム」から生まれた「APT.」を最初に思いついたとき、ROSÉは「飲み会ゲームの曲を書いちゃったけど、それって本当に大丈夫なのかなって」と焦ったと語っています(*2)。作曲を担当するブルーノに候補として3曲を送ろうとしたところ、周りからは「それは選ばれない」とやんわりと止められたそうですが、最終的に選ばれたのが「アパトゥ」でした。ブルーノが「アパトゥ」の意味を尋ねた際、ROSÉが「飲み会のゲームなの」と答えると「最高じゃん!」と意気投合したのだそうです(*3)。
*2: BLACKPINKのロゼがブルーノ・マーズとコラボ! 3年ぶりの新曲「Apt.」をリリース(VOGUE JAPAN)
https://www.vogue.co.jp/article/rose-bruno-mars-single-apt
*3: ROSÉ Is On Top(Paper magazine)
https://www.papermag.com/rose-blackpink#rebelltitem1
「APT.」の耳なじみのいいメロディーは、日本でもおなじみのトニー・バジル「Mickey」(1981年)からインスパイアされたもの。チアリーディングでもよく使われるレトロで明るい楽曲に、The Ting Tingsの「That's Not My Name」(2008年)のようなロックテイストを混ぜ込むバランス感覚は、ブルーノの「過去を現代風にアレンジするセンス」が炸裂しているようにも見えます。ROSÉ自身が幼少期にチアリーダーの経験もあるので、ブルーノなりに彼女のバックボーンを引き出した結果なのかもしれません。1980年代のポップスやファンクのテイストも混ざったサウンドの上でROSÉの声がシンディー・ローパーのように弾み、そこにブルーノのソウルフルでありつつポップな歌声が合わさります。
親しみやすいメロディーに新鮮さをもたらしているのが、英語歌詞の中で光る韓国語です。「Apart=アパート」を韓国語式の「アパトゥ」と発音することでキャッチーさと中毒性を生み、ブルーノのパートでは「コンベ」という韓国語の「乾杯」という単語まで出てきます。ROSÉは「韓国文化は世界でも最も楽しい文化の一つだと思います。それを世界に見せられることは、私自身にとっても個人的な喜びです」とも語っており、ローカルの面白さをグローバルに広めたいという気持ちも込められています。
© Amy Lee
ガールズグループ・BLACKPINKのメンバー。2021年にリリースしたソロシングル「On The Ground」は、ビルボード・グローバル200チャートで1位を獲得し、ビルボード・ホット100ではK-POP女性ソロアーティストとして史上最高位を記録している。Saint Laurent、Tiffany & Co、RIMOWA、PUMAといったブランドのグローバルアンバサダーを務め、ファッション界でも揺るぎない地位を確立。Instagramのフォロワー数は8000万人を超え、音楽、ファッション、慈善活動において大きな影響力を発揮している。
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