2025年02月21日 18時00分
インタビュー
2025年02月21日 18時00分
インタビュー
「目立たない人が好き」と、思い入れのあるキャラクターについても語ってくれた加藤シゲアキさん
NEWSのメンバーとして活躍を続け、小説家としても精力的に新作を発表している加藤シゲアキさん。雑誌「anan」の連載に大幅に加筆・修正した「ミアキス・シンフォニー」が2月26日に刊行されます。最長の時間をかけたという物語に込めた思いと、愛をテーマにした理由。そして、俳優、監督としても活動するなど多彩な才能を発揮している加藤さんに、時間の使い方や“推し候補”についてもお話を伺いました。
――長い時間をかけて執筆した小説「ミアキス・シンフォニー」が完成した今の心境からお聞かせください。
やっと僕の手を離れて巣立っていくなという思いですね。だいぶやんちゃで言うことを聞かない、かなり手のかかる子だったと思います。今までで一番読み直した小説になりました。 「anan」での不定期連載だったので、バックナンバーを取り寄せて読めるという状況でもなくて。読みたいのに読めないというお声もたくさんいただいていたので、やっと皆さんにお届けできることがうれしいですね。この小説が持っている魅力みたいなものはそのままに、読みやすく仕上げることができたんじゃないかなと思います。
――改稿を重ねる中で、ご自身の小説家としてのスキルアップを実感することもあったそうですね。どんなところで感じましたか?
自分で答えるのはちょっと恥ずかしいので、……どうですか?(と、書籍担当の編集部の方に質問)
「細部の描写の美しさは当初からですが、登場人物の個性を表現したり、物語の流れを際立たせるための取捨選択に、すごくセンスを感じました」(編集スタッフ)
――ありがとうございます。加筆修正をしてブラッシュアップしていくことは、とても根気のいる作業ですよね。
僕は直すのは得意ですけど、好きではないという感じなんです。直す必要がない小説を最初から書けるのであれば、それが一番いいと思うんですけどね。初稿は長い下書きだと思っているので、荒いところもそのまま出してそこから形にしていくのですが、直していけばいくほどどんどん磨かれて水準が上がっていきます。今回はだいぶ磨いたと思ったけどまだまだ磨けるんだ、みたいな感覚になりました。
――連作の短編として連載していたものを一冊にまとめる際に、大変だったことはありますか?
連載していたものを並べ替えるだけではなく、無駄を省いてシームレスに読めるようにしていく作業はスキルフルだったと思います。すごく難しかったですし、作家を10年以上やったからできることだなとは思いましたね。最初だったら、どうしたらいいのかわからなかったと思います。
――多様な登場人物たちがどんどんつながっていって、最後まで一気に読みました。
すごくひねくれた人は出てこないから、読みやすいシステムにはなっているかもしれないですよね(笑)。弁護士も職業的な部分ではなく人間的なところを描いているので、難しさはないんじゃないかなと思います。
――さまざまな年齢や職業の人物が登場しますが、加藤さんの思い入れのあるキャラクターはいますか?
僕は目立たない人が好きなので、玉美という人物の友人の由紀ちゃんというキャラクターですね。高校時代に想いを抱いていた玉美の元夫と電車の中で話す場面があるのですが、何か大きなことが起こるわけではないんです。でも読み直したとき、由紀の気持ちにすごく共感できて。彼女は孤独に見えるかもしれないけど決して不幸なわけではなく、彼女は彼女の人生を自ら選択しながら生きている。そこが好きだなと思いました。
――一つの場面を異なる視点から描くことで、それぞれの人生が浮かび上がってくる小説ですよね。
他者の視点によって人物が浮かび上がってくるということを、やってみたかったんです。ある人はこういう風にあの人を見ていたけど、別の人は違う風に捉えている、みたいなことってよくありますよね。人間って本質的にはわかり合えないからこそ、どうにかわかり合おうとする。そこを描くことが、小説の面白さの一つだと思っています。
――「ミアキス・シンフォニー」を執筆する際には、特に取材はしていないそうですね。それぞれのキャラクターを一人称で書いているときは、イマジネーションを広げていく感じですか?
一人称って不自由さもあれば書きやすさもあるのですが、とにかくその人になりきるしかないんです。彼や彼女を、自分に憑依させるというか。小説を書いているとき、落語みたいだなと思ったりもしますね。一人であっちに行ってこっちに行って……って、演じ分けながら書いていく感じなのですが、そのときには性別も関係ないんです。もともと「女性なのにサバサバしている」とか「男の方がうじうじしている」みたいな言い方を聞くと、性別は関係なくて、人間にはいろんな面があるんじゃない? と思う方だからだと思います。もちろん性別によって特有の悩みもあると思いますが、心の中心は一緒だろう、と。大切なのは、体温がどこで上がって、どこで冷めて、平熱がどれくらいなのかということ。いかにしてそのキャラクターに体温を宿すか、ということだと思っています。
1987年7月11日生まれ。大阪府出身。NEWSのメンバーとして活躍しながら、2012年に「ピンクとグレー」で作家デビュー。「オルタネート」で吉川英治文学新人賞、高校生直木賞を受賞。同作と「なれのはて」で直木賞候補に。2022年には舞台「染、色」の脚本で岸田國士戯曲賞候補にも選ばれた。そのほかの作品に、エッセイ集「できることならスティードで」、能登半島地震支援チャリティ小説企画「あえのがたり」など。4月より、主演舞台「エドモン〜『シラノ・ド・ベルジュラック』を書いた男〜」の2年ぶりの再演が決定している。短編映画プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS Season7」の「SUNA」ではAぇ! groupの正門良規を主演に迎え、自身も主演、監督を務めている。
2025年2月26日(水)発売
マガジンハウス刊
大学入学のために博多から上京したが、鬱々とした日々を送っているあや。大学で同級生のまりなと出会ったことで、思いがけない事件が起こる。和食の料理人の師弟の過去、兄弟間の愛憎、元夫婦の思いなど、いくつもの物語の先に待つものは……? ミアキスとは犬と猫の祖先と言われる動物。ミアキスから分岐して生物が進化していくように多様な人物たちが現れ、壮大なシンフォニーを紡いでいく。2018年から2022年まで全16回にわたって雑誌「anan」で不定期連載されていた「ミアキス・シンフォニー」に大幅な修正や加筆を加え、愛とは? という問いを描く新たなる小説として刊行。
©末長真・マガジンハウス
268
この記事はいかがでしたか?
1記事10回までリアクションできます
RECOMMENDED TAGS
REAL TIME RANKING
CHEER RANKING